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2021年11月26日金曜日

11月26日

 


探偵シリーズバックナンバーより~

 

融資先の突然の失踪! 依頼人の胸中は

 

 「人を捜してほしい…」と、60代後半の経営者が相談に来た。紳士然としていて、傲慢さなどはみじんもない。品格と知的さが漂っていて、話す口調も穏やか。依頼人は群馬県在住だが、足利の経営者仲間からGKを紹介されたと宇都宮まで足を運んでくれた。

 今から25年前、父親が経営する社員8人の金属研磨工場を引き継いだ。本人は大学院を修了後、都内の大手企業に勤務していたが、父親ががんに犯されたことを機に後を継いだ。当初は、古参の社員たちとうまくいかず、業績も悪化し倒産の危機に扮したこともある。しかし、地べたをはいつくばるように仕事に取り組んだ。何がそうさせたかと言えば、裕福な家庭ではないのに、朝から夜遅くまで油まみれになって、自分を都内の大学院を修了するまで資金援助をしてくれた両親への報恩感謝なのだと。そして、引き継いでから10年後には社員50人の株式会社に育て上げた。

 ことは半年前にさかのぼる。取引先は、東海地方の企業が8割を占めており、契約や受注に関する件は都内で行っている。接待は銀座のクラブがお決まりのパターン。そこで、2 年前、なじみのホステスに、ある40代の経営者を紹介された。職種的には、直接関係があるものではなかったが、その熱意は、父親の後を継いで必死にやっていた時の自分自身と重なり、意気投合して親密になった。そして、新規事業を展開したいので、3000万円融資してほしいと懇願され、その情熱に快く応じた。それから、半年は、返済は継続されていたが、突如まったく連絡が途絶えてしまった。都内の会社を訪ねてみたがもぬけの殻。本人と会いたい。そして、事情を聴きたいと。

 所在調査開始。元従業員にたどり着く。突然姿を消してしまったと元従業員はやり場のない怒りを私たちにぶつけてきた。さらに親族等くまなく2週間聞き込みを行うと、「沖縄県八重山諸島」というキーワードが色濃くなった。そしてついに、その島のマース(塩)の工場に勤務していることを突き止め、沖縄に飛び発見。そこで家族3人で慎ましい中にも穏やかな笑顔がある生活を送っていた。依頼人へ後日報告。その映像を見た依頼人は、一言も言葉を発することはなかった。その表情に怒りはなく、むしろ菩薩のような温かい表情だった。そして、手紙を送ると言って事務所を後にした。

 それからひと月後、GKに手紙が送られてきた。依頼人からだ。本人へ手紙を送付したところ、すぐに便箋10枚に及ぶ手紙の返送があった。そこには深い謝罪の念と、とても明らかには出来ない深く悲しい事情がつづられていたと記されていた。「お金の問題ではなく、ことの真相が分かって本当によかった」。依頼人の慈悲深い人柄に触れた調査だった。

 *本文はいくつかの事例を基に構成されています。盗用・無断転用・無断転載を一切禁じます。

 

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