探偵シリーズバックナンバーより~
「嫁の本性と悪あがき①」
降りしきる雨、湿気とむせ返るような暑さ。かっぱを着こんだ探偵が雑木林に囲まれたホテルの塀のわずかな隙間から、身じろぎもせずにビデオを構える。雨ほど探偵泣かせの状況はない。雨に打たれて雑草が独特のにおいを放ち、息が詰まりそうになる。まるでナメクジにでもなったかのような気分の中、男女が入った部屋のドアノブを注視する。何としても、不貞行為の証拠を抑えなくてはならない…。
弁護士の紹介という60代の夫婦が相談に来た。相談のあらましは父親の口から語られた。敷地内に別棟を建てて暮らしている息子の嫁に対する浮気疑惑だった。嫁は日頃から舅・姑を避けるように生活している。優しく真面目なだけが取り柄の息子だったが、完璧なまでに嫁の尻に敷かれている。少しでも嫁のことを悪く言おうものなら実の親とも口をきかなくなる。両親もなるべく、小言は言わないようにしているという。
30歳の息子は、会社の元同僚で2年の交際を経て結婚した嫁と、その間に今年小学校に入学した男の子がいる。息子は工場で3交替の勤務に就いているが、子どもの面倒は全て両親が見てくれる環境にあり、ファミレスでパート勤務の嫁は時給の良い深夜にシフトを入れることが多い。結果としてほとんどすれ違いの生活を送っているという。
嫁に対して浮気疑惑を持ったきっかけは、小学校に入学したばかりの孫が、夜中に体調が悪くなったことだった。嫁は仕事中だったが携帯を鳴らしてみた。案の定出ない。1時間待ったが折り返しの連絡も入らなかった。嫁が怒ると分かっていたが、やむを得ず職場である店舗に電話をかけると、店長を名乗る男性が2時間前にシフトが終わってあがったとの返答があった。
以前、勝手に医者に連れて行って神経質すぎるとなじられたことがあるが、どうしても心配で救急当番医に連れて行った。幸い大事にはいたらなかった。とてもこのことを嫁に話すことはできない。また、なじられ、仕事先にまで電話を掛けたことに激昂するかもしれない。仕方なく息子にだけは話をした。後日、嫁に確認したと言って、息子はその訳を話し始めた。「その日は他店の応援に回されたんだよ」と、取りつく島もなかった。その話が本当なら、嫁の勤務する店舗でもその事実は言ってくれたはずなのに、息子はそれが本当のことだと信じて疑わない。
息子に事実を確認した方がいいとは言える術もない。孫のことを思うと、家族仲良く暮らしてさえくれればいい。何もなければそれに越したことはない。とにかく真実を知りたい…。そんな思いを弁護士に相談しGKを紹介されたという。調査開始。恐るべき嫁の本性が次々と暴かれていく…。
(次回に続く)
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