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2020年8月28日金曜日

8月28日

 


探偵シリーズバックナンバーより~

 

33 年の歳月娘は今

 

 夫の実家である農山村で夫の両親と同居することになり、休む暇もなく働かせられた。子ができないことを責められ、ようやく娘ができたと安堵(あんど)したのもつかの間、産後の肥立ちが悪く入退院を繰り返し、娘が2歳の時、離縁させられた。(前回より)

 当時の住所はない。幹線道路が抜け、大型店舗が軒を連ねており、依頼人の記憶に残るのどかな農山村地区とはまるで様相が違っていた。今回の調査は、単に娘の所在を突きとめればよいというものではない。娘のプライバシーを最大限に配慮しつつ、母子の名乗りをあげることができたらという母の切ない思いを背負っている。

 現地に乗り込み2日後、依頼人が嫁いだ家を突きとめた。糸を手繰り寄せるように調査を進め、当時の実情が分かる人物を絞り込む。ようやく娘と中学の同級生だったという人物と接触することができた。事情を説明すると、快く協力を得ることができた。同級生に同行を依頼して女性探偵にその家を訪問させる。

 すると、嫁ぎ先には、父親の妹夫婦が住んでいた。警戒されないように話を引き出す。舅(しゅうと)は30年前、姑(しゅうとめ)は20年前に他界し、父親は娘が4歳、つまり依頼人と離縁してから2年後に東京に働きに出て、姑の葬儀後音信不通となったという。

 娘は子に恵まれなかった妹夫婦に育てられた。現在は、東北最大の都市で一人暮らしをしながら美容室で働いているという。結婚の経験はない。翌日、その都市へ向かい、美容室を見つけ女性探偵を潜入させた。しかし、女性スタッフが6人もいて人物が特定できない。

 探偵が外からガセ電話を入れて女性探偵が人定をするという作戦をとる。電話が鳴るとスタッフが受話器を取り、ある女性のもとへ駆け寄り耳打ちした。店長と呼ばれていたスタッフだった。その女性が受話器をとった。つまり、この女性が33年前に別れた娘だった

 この先は、慎重を期さねばならない。三十有余年の時空は深くどんな感情が噴き出すのか想定できないからだ。店の明かりが消えて最後に出てきた娘に声をかける…。娘は、「恨みなんかまったくありません。叔母夫婦がわが子のように愛情を注いでくれましたから」と語り、持参した依頼人の現在の顔写真を見せると、私、似ていますねと屈託のない笑顔を見せた。「会ってもらえないか?」との問いに、少し時間をくださいという。それから2カ月、私たちが仲介し、ようやく今月末に、33年ぶりの対面がかなう。この長い年月の時空が埋まればいいと、ただひたすら願うしかない。

 (前回はホームページをご覧ください)

 *本文はいくつかの事例を基に構成されています。盗用・無断転用・無断転載を一切禁じます。

 

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