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2021年6月7日月曜日

6月7日

 



探偵シリーズバックナンバーより

「人生の転機」覚悟

 

 弁護士事務所からの紹介でGKを訪れた40代の妻。小柄で清楚(せいそ)ながら、意志の強そうな目が印象的だ。高級ブランド品に身を包んでいるが、品の良さを醸し出している。依頼内容は、夫の身辺を洗ってほしいというもの。

 夫は、祖父の代から続く会社の3代目として会社を経営しており、不況の時代にあっても極めて業績は安定している優良企業と位置づけされている。妻は、役員として総務・経理を統括する立場であり、そこに、今回の依頼の発端があった。

 それは、3年前に届いた固定資産税の納入通知書のひとつ。資産形成のひとつとして、土地・マンションなどいくつかの不動産を所有していたが、新たにマンションを購入した事実が判明した。これまでは、不動産を購入する場合は、必ず事前の相談があったが、今回ばかりは何の相談もなかったのである。

 夫に確認すると、取引銀行の子会社である不動産会社から熱望されて購入したもので、賃貸で貸すようになっているという回答だった。その話しぶりと態度は明らかに動揺していた。不審さは拭いきれなかったが、当時は、ひとり息子が高校3年で、大学受験に力をいれていかねばならない。その時期に、夫婦の諍(いさかい)は控えるべきと判断してそのままの状況で今日に至っているのだという。

 そして、今年、子供も大学4年になる。来年の卒業の目途がたったので、それを契機として、マンションの件も含め、徹底的に夫の身辺を洗ってほしいとの依頼だった。会社をここまでにしたのは、2代目である夫の父であり、その父も、2カ月前に入院した。癌(がん)に侵されていた。

 今でも、古参の社員たちの、父親に対する尊敬の念は深く、父の容態に憂いをなす社員は多い。夫の結婚当初からの度重なる浮気や、外国人ホステスに入れあげて家庭を顧みなくなった時期も、父は、妻に対して、すまないと心からその度に頭をさげてくれた。これまで、姑(しゅうとめ)のいじめに耐えることができたのも、良い子育てができたのも、夫のわがままに耐えてきたのも、すべては、父が陰となり日なたとなり、優しさと寛容さを持ってくれていたからだと、妻は眼を潤ませた。

 そんな父も癌という病に余命は永くない。父が他界し息子が大学を卒業してしまうと、生活も一変してしまう。そう思うといいようのない不安に押しつぶされそうになる。間違いなく夫には女性がいるだろうし、証拠をつかみ新たな人生の出発に備えなくてはならない。「離婚ありき」という並々ならぬ覚悟を妻は持っていた。

 妻が、都内に暮らす息子のもとへ1週間滞在する時期を調査期間と定め、調査開始。そこにはまさか…と想像を超えた夫の実態が浮き彫りになっていく…。

 (次回に続く)

 *本文は依頼人の了承を得てプライバシーに配慮しています。

 

 

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